我々日本のタイヤ産業は、摩耗性能向上によるタイヤの摩耗量削減に取り組むとともに、世界の主要なタイヤメーカーによって構成されるWBCSD(World Business Council for Sustainable Development) / TIP(Tire Industry Project)と連携して、科学的な調査を通じたタイヤ・路面摩耗粉塵(TRWP)の本質理解と、環境や人体への影響の把握と緩和策の検討に努めています。JATMAの正会員4社は、全てWBCSD/TIPのメンバーです。
Tire Industry Project - Tire and Road Wear Particles - Home page (tireparticles.info)
国際的な取り組み | 環境・リサイクル | 一般社団法人 日本自動車タイヤ協会 JATMA
TRWPとはタイヤ・路面摩耗粉塵のことで、その英文名称であるTyre and Road Wear Particlesの頭文字を取ったものです。タイヤは自動車の中で唯一路面と接触する部品で、タイヤが自動車の荷重を支えながら、走る(発進する)、曲がる、止まるという機能を発揮するためには、路面とタイヤの摩擦が物理的に不可欠です。そのタイヤと路面の摩擦によって発生する粉塵がTRWPで、タイヤのトレッド部材と道路舗装材からなる混合物です。多くのTRWPの大きさは100μm以下とされています(1μm=0.001mm)。タイヤのトレッドゴムは、天然ゴムや合成ゴム(SBR、BRなど)を主成分としていますが、それ以外にもカーボンブラックやシリカのような補強材に加え、加硫剤、加硫促進剤、促進助剤、老化防止剤などの配合剤が含まれています。
タイヤの摩耗量は様々な要因の影響を受けますが、そうした中でも大きな影響を与える要因としては以下が考えられています。
また、これらの要因がタイヤの摩耗量に与える影響は一様ではありません。ヨーロッパのタイヤ・ゴム産業の団体であるEuropean Tyre & Rubber Manufacturers’ Association (ETRMA) がTRWPに関して2019年にまとめた報告書には、タイヤの摩耗量に影響を与える主要な要因それぞれの影響度合いに関する推定結果が記載されています(図1)。これによれば、運転操作や道路の特徴、路面の状況がタイヤの摩耗量に大きな影響を与えることが示されています。この報告書は以下のリンクからご覧いただけます。
final-way-forward-report.pdf (etrma.org)
タイヤ摩耗量の削減やTRWPの削減には、以下に示すような多面的なアプローチが必要です。
我々日本のタイヤ産業は、自らが製造し社会に提供する商品であるタイヤに関し、商品としてのタイヤに求められる安全性を確保しつつタイヤの耐摩耗性を向上させることでTRWPの発生量の低減に寄与すべく、技術開発に取り組んでいます。技術開発においては、安全を最優先に、濡れている路面や凍っている路面での制動停止距離に影響を与えるグリップ性能や燃費性能、騒音性能などをタイヤの摩耗性能と高いレベルで両立させるための開発を行っています。具体的には以下のような事例があります。
上述した様々な取り組みの成果を背景に、JATMA正会員4社が製造するタイヤの耐摩耗性は向上しています。4社が製造する代表的な市販用タイヤでは、新商品の従来品に対するタイヤ寿命の伸長から推定される摩耗量は、乗用車用タイヤでは2005年から2020年の15年間で16.6%、トラック・バス用タイヤでは2008年から2018年の10年間で9.7%削減されています(図2)。タイヤ寿命の伸長によるタイヤ摩耗量の減少は、TRWPの発生量削減に大きく寄与していると考えられます。引き続き、摩耗量の削減に取り組みながら、TRWPの本質理解と環境や人体への影響の把握に努めていきます。
算定条件
1. 2008年~2022年に発売された国内向けの代表的な市販タイヤにて、新商品の旧商品からのタイヤ寿命の向上率を各商品の技術説明に記載されている内容を基にJATMAでまとめた。
2. 乗用車用タイヤ(PC)、トラック・バス用タイヤ(TB)とも夏タイヤ、スタッドレスタイヤを対象にタイヤ寿命の向上率を取りまとめた。
3. 商品サイクルの期間をPC=5年、TB=10年として摩耗量の削減率を推定した。
4. PCは2005年の値を、TBは2008年の値をそれぞれ100として指数化した。
5. タイヤ寿命の伸長によるタイヤ摩耗量は主溝深さなどの設計要素に変化がないものとして推定した。